コラム

コロナ禍で320万世帯がペットを迎えた|イギリスのペットブームとその後の現実

ペット先進国を襲う「遺棄の危機」と支援の動き

約7分
コロナ禍で320万世帯がペットを迎えた|イギリスのペットブームとその後の現実

この記事でわかること

2020年のロックダウンでイギリスでは320万世帯がペットを迎え、犬の人口は1200万頭に急増しました。しかし5年後の今、遺棄件数は過去6年で最悪を記録。「9分に1件」のペースで動物が捨てられる現実と、支援の取り組みを解説します。

2020年3月、イギリス全土がロックダウンに入りました。 在宅勤務が当たり前になり、家で過ごす時間が劇的に増えた人々は、こう考えました。 「今なら犬を飼える」と。

Kennel Club(ケネルクラブ)の統計によると、「パピーを探す」検索は2020年3〜5月に前年比168%増加。 5月だけで見ると237%増という驚異的な数字でした。 イギリス中で子犬を求める人が殺到したのです。

320万世帯がペットを新たに迎えた

PDSA(People's Dispensary for Sick Animals)の調査によると、コロナ禍が始まってから約320万世帯が新たにペットを迎えました。 イギリスのペットの4分の1近くが、パンデミック以降に家庭に加わった計算になります。

320万世帯

コロナ禍でペットを迎えた世帯数

新規飼い主の59%がZ世代・ミレニアル世代

犬の人口は2019年の900万頭から、2021年には1200万頭へと急増。 子犬の数は2016〜2020年の間に3倍近くに増え、180万頭に達しました。 まさに空前のペットブームでした。

新しい飼い主の多くは若い世代でした。 Z世代とミレニアル世代(16〜34歳)が全体の59%を占め、都市部に住む人が55%。 「ロックダウンの孤独を癒やすために」「ようやく一緒にいられる時間ができたから」という動機が目立ちました。

コロナ禍のペットブーム:日本との比較
イギリス

320万世帯が新規飼育。しかし2025年には遺棄件数が過去6年で最悪に

5年後、遺棄件数は過去最悪に

しかし、ブームの代償は大きなものでした。 2025年、RSPCAが発表した数字は衝撃的です。

24,270件 2025年の遺棄報告件数(10月まで)
25%増 前年同期比の増加率
9分に1件 遺棄が報告されるペース

RSPCAの緊急ダイヤルには、9分に1件のペースで動物の遺棄が報告されています。 これは過去6年間で最悪の水準です。 冬季(11月〜1月)に限ると、2020年と比べて51%も増加しています。

Dogs Trustにも年間47,000人以上が「犬を手放したい」と相談しており、引き渡し理由のトップは「飼育に対処できなくなった」(6.1%)、次いで「望ましくない行動」(6.07%)でした。

なぜ遺棄が急増しているのか

RSPCAは主な原因として「生活費の高騰」「獣医費用の上昇」「パンデミック中の衝動的な購入」を挙げています。ペットフード価格は25%上昇し、獣医費用のインフレ率は9.1%に達しました。

生活費危機(Cost of Living Crisis)の影響は深刻です。 RSPCAの調査では、飼い主の36%が経済的理由で行動を変えたと回答し、15%が「ペットを飼ったことを後悔している」と答えました。 若い世代(16〜24歳)では、28%がすでにペットを手放したことがあるという衝撃的な結果も出ています。

「パンデミックパピー」の行動問題

もう一つの問題は、ロックダウン中に迎えられた犬たちの行動です。 2025年2月、王立獣医大学(RVC)が発表した研究は、この問題の深刻さを浮き彫りにしました。

パンデミックパピーの課題

ロックダウン中に子犬を迎えた飼い主は、社会化の機会が制限されました。他の人間や犬との接触が不足した結果、成犬になった今、分離不安や攻撃性などの行動問題を抱える犬が増えています。

研究によると、「パンデミックを理由に子犬を買った」飼い主は、計画的に購入した飼い主よりも「負担感」が高いことがわかりました。 また、問題行動を示す犬の飼い主は、犬との感情的な絆が弱まる傾向にあります。

特に懸念されるのは、パンデミック中に購入された子犬の多くが「劣悪な環境のブリーダー」から来ていることです。 健康検査を行うブリーダーを選ぶ人が少なく、子犬を実際に見ずにオンラインで購入するケースも増えました。

2020年3月 ロックダウン開始、パピー検索168%増
2021年 犬人口1200万頭に急増
2024年 遺棄件数23,564件、増加傾向に
2025年 遺棄件数25%増、過去6年で最悪

英国獣医師会(BVA)は、犬の行動に悩む飼い主に対し、早めに獣医に相談することを推奨しています。 医学的な問題が隠れている可能性もあり、行動問題は早期介入が重要だからです。

RSPCAは節約ガイドや予算内の獣医オプションを提供
ペットフードバンクがイングランド・ウェールズで拡大中
PDSA、Blue Cross、Dogs Trustも獣医費用支援を提供

動物福祉団体は危機に対応するため、さまざまな支援を展開しています。 RSPCAはペットフードバンクを拡充し、節約のためのガイドを公開。 PDSAやBlue Crossは低所得者向けの無料・低価格の獣医ケアを提供しています。

しかし、支援の手が追いついていないのが現状です。 RSPCAの保護センターはすでに満杯で、1,200頭以上の動物が民間のボーディング施設に預けられています。 施設の維持費用は団体の財政を圧迫しており、「遺棄の流行」と呼ばれる事態に歯止めがかかっていません。

一部の団体は「生活費危機ペット基金」の創設を政府に求めています。 経済的理由だけでペットを手放さざるを得ない状況を防ぐためです。 日本でも同様のペットブームがあり、保護団体への相談が増加しています。 イギリスの経験は、ペットを迎える前に10〜15年の飼育費用と責任を考える重要性を示しています。

まとめ

コロナ禍でイギリスは空前のペットブームを経験しましたが、5年後の今、遺棄件数は過去最悪を記録しています。パンデミックパピーの行動問題や生活費危機が重なり、動物福祉団体は「遺棄の流行」と呼ぶ事態に直面。ペットを迎える決断には、10〜15年先を見据えた覚悟が必要だという教訓を、イギリスの経験は示しています。

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