コラム

ペットショップで犬が買えない国|イギリスの生体販売禁止法と保護犬文化

1匹の犬が変えた法律「ルーシー法」の物語

約7分
ペットショップで犬が買えない国|イギリスの生体販売禁止法と保護犬文化

この記事でわかること

イギリスでは2020年からペットショップでの犬猫販売が違法です。「ルーシー法」と呼ばれるこの法律は、劣悪な環境で繁殖されていた1匹のキャバリアの物語から生まれました。犬を迎えるなら保護施設かブリーダーから直接——イギリスの選択を解説します。

日本のペットショップには、ガラスケースの中で子犬や子猫が展示販売されています。

しかし、イギリスでは、この光景を見ることはできません。

2020年4月6日、イギリス(イングランド)で「ルーシー法(Lucy's Law)」が施行されました。 ペットショップなどの第三者による子犬・子猫の商業販売が禁止されたのです。

この法律により、イギリスで犬や猫を迎えるには2つの方法しかなくなりました。 ブリーダーから直接購入するか、保護施設から譲り受けるかです。

なぜ「ルーシー法」と呼ばれるのか

この法律の名前は、1匹のキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルに由来しています。

ルーシーは2008年、ウェールズの子犬繁殖場(パピーファーム)で生まれました。 彼女はそこで5年以上にわたり、繁殖犬として過酷な環境で飼育されていました。 何度も出産を繰り返し、子犬たちは生まれてすぐに引き離されて販売されていきました。

彼女の置かれていた環境は過酷でした。 立ち上がることもできないほど狭いケージに閉じ込められ、自分の排泄物の上で眠ることを強いられていました。 背骨は変形し、毛は尿で焼けただれ、片目の視力を失っていました。

これがパピーファームの実態です。

2013年、動物保護団体「Many Tears」に保護されたとき、ルーシーの体重はわずか3.5kgで、健康なキャバリアの半分以下でした。

その後、リサ・ガーナーさんに引き取られたルーシーは、少しずつ回復していきました。 彼女は獣医師マーク・エイブラハム氏とともにパピーファーム撲滅キャンペーンの象徴となりました。

彼女の物語がSNSで拡散され、世論が動き、ついに法律が変わったのです。 ルーシー自身は2016年に亡くなりましたが、彼女の名前を冠した法律は今も多くの犬猫を守り続けています。

2013年 ルーシーがパピーファームから保護される
2017年 「ルーシー法」キャンペーン開始
2018年 政府が第三者販売禁止を発表(支持率95%超)
2020年 ルーシー法施行(4月6日)

ルーシー法で何が変わったのか

ルーシー法の正式名称は「2019年動物福祉(動物を伴う活動のライセンス)(イングランド)(改正)規則」です。

この法律のポイントは明確です。 生後6ヶ月未満の子犬・子猫を、ブリーダー以外の第三者(ペットショップなど)が販売することを禁止しています。

子犬・子猫はブリーダーから直接購入する
購入時には母犬と子犬が一緒にいることを確認する
生まれた場所で引き渡しを受ける
または保護施設から譲り受ける

違反した場合、無制限の罰金または最長6ヶ月の禁固刑が科される可能性があります。

また、年間3リター以上を繁殖するブリーダーには、地方自治体からのライセンス取得が義務付けられています。 ライセンスを持つブリーダーは1〜5つ星で評価され、購入者が品質を判断できるようになっています。

なぜ「母犬との対面」が重要なのか

パピーファームでは、子犬を別の場所に移動させて販売することが一般的でした。母犬を見せないのは、劣悪な飼育環境を隠すためです。ルーシー法により、購入者は必ず母犬と子犬が一緒にいる場所を訪問することになり、悪質なブリーダーが淘汰される仕組みが作られました。

日本との違い

日本ではペットショップでの生体販売は合法です。 2021年6月に改正動物愛護法が完全施行され、「8週齢規制」が導入されました。

これは生後56日(8週間)未満の子犬・子猫の販売を禁止するものです。 しかし、8週齢を過ぎれば、ペットショップでの展示販売は認められています。 日本でも保護犬・保護猫を迎える動きは広がっていますが、ペットショップでの購入が依然として主流です。

犬・猫の入手方法の違い
イギリス

ペットショップでの犬猫販売は違法。ブリーダーから直接購入するか、保護施設から譲り受けるかの二択。

イギリスでは約14%の犬が保護施設から迎えられています。 RSPCAは2024年に26,000匹以上の動物を保護・譲渡しました。 Dogs TrustやBattersea Dogs Homeなど、全国に数百の保護施設が存在し、「保護犬を迎える」という選択肢が社会に根付いています。

一方で、イギリスにも約10万頭のホームレス犬が存在し、シェルターは常に満員状態です。 コロナ禍で犬を飼い始めた家庭の一部が、経済的理由や生活スタイルの変化で犬を手放すケースも増えています。 ルーシー法は万能ではなく、違法ブリーダーやインターネット販売への対策など、まだ課題が残されています。

26,000匹以上

RSPCAが2024年に保護・譲渡した動物数

イギリス最大の動物保護団体による実績

ルーシー法は完璧な解決策ではありません。 インターネットを通じた違法販売や、スコットランド・ウェールズ・北アイルランドではまだ法整備が追いついていないという課題もあります。

それでも、1匹の小さな犬の物語が国を動かし、法律を変え、何千もの命を救う可能性を開いたことは紛れもない事実です。

ルーシー法の適用範囲

現時点でルーシー法が適用されるのはイングランドのみです。スコットランド、ウェールズ、北アイルランドでは同様の法整備が進められていますが、完全施行には至っていません。イギリス全土を訪れる際は、地域による違いにご注意ください。

まとめ

イギリスでは2020年のルーシー法施行により、ペットショップでの犬猫販売が禁止されました。犬を迎えるならブリーダーから直接購入するか、保護施設から譲り受けるかの二択です。日本とは大きく異なるこの制度は、1匹の犬の物語から生まれました。動物福祉を法律で守る国の選択として、知っておく価値があります。

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