この記事でわかること
イギリスでは約7割の猫が自由に屋外へ出入りでき、多くの家にはキャットフラップ(猫用ドア)が設置されています。日本の完全室内飼いとは真逆の文化が生まれた歴史的背景と、現在の変化を解説します。
「猫は外に出すもの」——これが長年のイギリスの常識です。
日本では完全室内飼いが強く推奨され、90%以上の猫が家の中だけで暮らしています。 しかしイギリスでは、猫が自由に屋外を歩き回れる環境が当たり前とされてきました。
なぜこれほどまでに大きな違いが生まれたのでしょうか。 イギリスの猫文化を、歴史と最新の統計データから紐解きます。
イギリスの猫の7割が屋外アクセス可能
PDSAの「PAW Report 2024」によると、イギリスの猫の67%が屋内外両方の環境にアクセスできます。 完全室内飼いは31%、屋外のみは1%です。
67%
屋外アクセス可能な猫の割合
PDSA PAW Report 2024
注目すべきは、この数字が「減少傾向」にあることです。 2011年には83%の猫が屋外アクセス可能で、室内飼いはわずか15%でした。
つまり、イギリスでも室内飼いは増えています。 しかし、それでも日本の90%超と比べれば、外出できる猫の割合は圧倒的に高いのです。
室内飼いが増えている理由として、交通事故のリスク、他の猫からの感染症、野生動物への影響などが挙げられます。 また、近年は「catio(キャティオ)」と呼ばれる猫専用のベランダ囲いも人気です。 PDSAの調査では、室内飼いの猫のうち約8%がcatioを利用しています。
猫の飼育スタイル比較
完全室内飼いが約90%。外出させると「迷惑」「危険」と考えられる。行政も室内飼いを推奨。
約70%が屋外アクセス可能。「猫の自然な行動を尊重すべき」という価値観が根強い。
屋外アクセスできる猫のうち、70%は「好きなときに出入りできる」状態です。 これを可能にしているのが、キャットフラップという便利な装置です。
キャットフラップは14世紀から存在した
キャットフラップ(cat flap)とは、ドアに取り付ける猫専用の小さな出入り口です。 猫が自分で押し開けて、自由に出入りできる仕組みになっています。
現在のイギリスでは、さまざまなタイプのキャットフラップが販売されています。 シンプルな手押し式から、マイクロチップで個体識別する電子式、時間帯によって自動ロックするタイマー式まで多様です。 特にマイクロチップ式は、近所の猫や野生動物の侵入を防げるため人気があります。 価格は20ポンド(約4,000円)から200ポンド(約4万円)程度まで幅があります。
この装置の歴史は驚くほど古く、14世紀のチョーサー『カンタベリー物語』にすでに「猫穴」の記述があります。 マンチェスターのチェサム図書館(1421年建設)には、当時の猫穴が現存しています。
ニュートンがキャットフラップを発明したという逸話は有名ですが、実は都市伝説です。 ケンブリッジ大学の彼の部屋に猫穴があったとされますが、伝記作家によると「ニュートンは猫も犬も飼っていなかった」とのこと。
現代のキャットフラップ事情
最新のキャットフラップはマイクロチップと連動し、登録された猫だけが出入りできます。近所の猫の侵入を防ぎ、盗難対策にもなる優れものです。イギリスでは専門の設置業者も多数存在します。
なぜイギリスでは猫を外に出すのか
イギリスで猫を外に出す文化が根付いた背景には、歴史的な経緯があります。
中世からビクトリア時代まで、猫は「ネズミ捕り」として飼われていました。 「ペット」ではなく「働く動物」だったのです。 農場や倉庫、商店で害獣駆除のために重宝され、当然、外を自由に歩き回り、獲物を捕まえることが期待されていました。
ビクトリア時代(19世紀後半)に入ると、猫は徐々に愛玩動物として認識されるようになります。 1871年にはロンドンのクリスタル・パレスで世界初のキャットショーが開催され、猫は「美しい生き物」として注目を集めました。 ヴィクトリア女王自身も2匹のブルーペルシャを飼っていたことで知られています。 しかし、「猫は外で自由に過ごすもの」という考え方は変わりませんでした。
「理想的には、すべての猫が屋外にアクセスできるべきです。猫の自然な行動を表現するために」——Cats Protection
イギリス最大の猫保護団体Cats Protectionも、公式に「猫は屋外アクセスが理想」と述べています。 もちろん、医療上の理由や安全上の理由で室内飼いが必要な場合もあると補足していますが、基本的なスタンスは「外に出せるなら出すべき」です。
一方、日本では事情が異なります。 都市部の交通量の多さ、集合住宅の多さ、そして「近所に迷惑をかけない」という文化が、完全室内飼いを標準にしました。
ただし、イギリスでも「夜間は室内に入れるべき」という考え方は広まっています。 Cats Protectionは「交通事故や他の猫との喧嘩は夜間に多い」として、暗くなったら猫を家に入れることを推奨しています。 PDSAの調査でも、屋外アクセスできる猫の31%は「特定の時間帯は室内に閉じ込められる」と回答しています。 完全な自由放任ではなく、時間や状況に応じた管理が一般的になりつつあります。
室内飼いにも課題がある
PDSAの調査では、室内飼いの猫と屋外アクセス可能な猫で、ストレス行動を示す割合に差はありませんでした(ともに約48%)。ただし室内飼いの猫は肥満や糖尿病、泌尿器疾患のリスクが高まる傾向があります。
まとめ
イギリスでは約7割の猫が屋外アクセス可能で、キャットフラップは何世紀も前から存在する文化的装置です。日本の完全室内飼いとの違いは、歴史的背景と「猫の自然な行動」に対する価値観の違いから生まれています。どちらが正しいかではなく、それぞれの環境に合った飼い方を選ぶことが大切です。