この記事でわかること
イギリスでは「犬を4時間以上一人にしない」がRSPCAの推奨基準。8割の犬が一人でいることに困難を感じるというデータもあり、ドッグウォーカーやデイケアの利用が当たり前になっています。日本とは大きく異なるこの倫理観の背景を解説します。
「犬を長時間留守番させるのは虐待」。
イギリスでこんな言葉を聞いたら、日本の飼い主は驚くかもしれません。 共働き世帯が増えた日本では、8時間以上の留守番も珍しくないからです。
しかしイギリスでは、動物福祉団体RSPCAが「4時間以上一人にしない」ことを推奨しています。 この厳格な基準は、どのような考え方から生まれたのでしょうか。
RSPCAが推奨する「4時間ルール」の根拠
イギリス最大の動物福祉団体RSPCAは、犬を一人にする時間について明確な指針を示しています。
4時間
RSPCAが推奨する犬の留守番上限
運動・排泄・人との交流の機会を確保するため
この4時間という基準には、科学的な裏付けがあります。 RSPCAの調査によると、8割の犬が一人でいることに困難を感じているとされています。 さらに、その半数は明らかなサインを見せないため、飼い主が気づかないケースも多いのです。
PDSAも同様の見解を示しており、4時間を「日常的に許容できる上限」としています。 子犬や高齢犬の場合は、さらに短い時間が推奨されています。
この考え方の背景には、2006年に施行されたAnimal Welfare Act(動物福祉法)があります。 この法律は、ペットの「5つの福祉ニーズ」を飼い主に義務付けています。 適切な環境、食事、行動の自由、仲間との交流、そして健康管理。 長時間の留守番は、これらのニーズを満たせないリスクがあるのです。
犬の留守番に対する考え方
共働き世帯では8〜10時間の留守番も一般的。ケージでの留守番が主流で、特に法的・社会的な批判は少ない
4時間以上は動物福祉の観点から問題視。長時間の場合はドッグウォーカーやデイケアを利用するのが当たり前
ケージは「安全な居場所」であり「閉じ込める場所」ではない
イギリスと日本の留守番文化の違いは、ケージ(クレート)の使い方にも表れています。
日本では犬を留守番させる際、ケージに入れることが一般的です。 「いたずら防止」「安全のため」という理由で、8時間以上ケージで過ごす犬も珍しくありません。
一方、イギリスでは事情が異なります。 PDSAは「ケージに犬を入れるのは3時間以内」と明確に推奨しているのです。
PDSAのケージ使用ガイドライン
ケージは3時間以上の使用禁止、罰として使うことも禁止。あくまで犬が「自分で入りたがる安全な居場所」として使うべきとされています。
イギリスでは、ケージは「クレートトレーニング」の一環として、犬が自発的にくつろげる場所として位置づけられています。 長時間閉じ込めるための道具ではないのです。
そのため、フルタイムで働く飼い主の多くは、室内フリーの状態で留守番させます。 その代わり、ドッグウォーカーに昼間の散歩を依頼したり、ドッグデイケアを利用したりするのが一般的です。
イギリスのドッグウォーキング市場は急成長しており、2024年の平均料金は1回あたり約15ポンド(約2,800円)。 専門の資格を持ち、保険に加入したプロのウォーカーが、飼い主に代わって昼間の散歩を担当します。 GPSで散歩ルートを共有するサービスも普及しており、留守中の様子をリアルタイムで確認できます。
Dogs Trust調査が明かす分離不安の深刻さ
2024年に実施されたDogs Trustの全国調査は、イギリスの犬が抱える問題を浮き彫りにしました。 40万人以上の回答者、43万頭以上の犬に関するデータという大規模調査です。
この調査で最も問題視された行動は「分離不安」でした。 リードの引っ張りや他の犬への反応性と並んで、一人でいることへの不安がトップ3に入っています。
分離不安の犬は、飼い主がいなくなると様々なサインを見せます。 過度な吠えや遠吠え、家具や壁の破壊行動、室内での粗相。 パンティング(荒い呼吸)やよだれ、同じ場所をぐるぐる歩き回る行動も典型的な症状です。 帰宅したときにドアの前で待っていたり、飼い主の後をついて回ったりする行動も、分離不安の初期サインとして注意が必要です。
特に注目すべきは、コロナ禍の影響です。 パンデミック中に迎えられた犬の多くが、適切な社会化やトレーニングの機会を逃しました。 その結果、現在イギリスの犬の33%が思春期を迎えており、行動問題を抱えるケースが増えています。
コロナ禍で人気だった犬種に要注意
ダックスフント、コッカプー、トイプードルは分離不安になりやすい傾向があります。パンデミック中に人気が急上昇したこれらの犬種は、一人でいる経験が不足しているケースが多いのです。
しかし、問題行動を示す犬が76%いるにもかかわらず、専門家(臨床動物行動学者)に相談した飼い主はわずか4%。 この数字は、分離不安への対処がいかに難しいかを物語っています。
RSPCAは、犬を一人に慣れさせるトレーニングを推奨しています。 最初は数分から始め、徐々に時間を延ばしていく方法です。 出かける前に特別な合図を出さない、帰宅時に大げさに褒めないなど、出入りを日常的なものにする工夫も大切だとされています。 深刻な分離不安の場合は、獣医師や認定動物行動学者への相談が勧められています。
まとめ
イギリスでは「犬を4時間以上一人にしない」がRSPCAの推奨基準であり、ケージも3時間以内の使用が求められます。Animal Welfare Act 2006で定められた「5つの福祉ニーズ」を背景に、ドッグウォーカーやデイケアの利用が一般化しています。日本とは異なる倫理観ですが、犬の福祉を第一に考える姿勢は参考になるのではないでしょうか。