この記事でわかること
- 犬の心臓病(弁膜症)の基礎知識と発症メカニズム
- 原因と発症しやすい犬種、年齢別リスク
- 見逃せない症状と受診すべきタイミング
- 診断方法と治療の選択肢、費用の目安
この記事は 約8分 で読めます。
最近、愛犬が散歩中に咳き込むようになった、階段を登るのを嫌がるようになった。
こんな変化に気づいたら、それは心臓病のサインかもしれません。
特に10歳を超えた小型犬では、半数以上が何らかの心臓疾患を抱えているというデータもあります。
本記事では、犬の心臓病の中で最も多い僧帽弁閉鎖不全症を中心に、原因・症状・治療法を詳しく解説します。
犬の心臓病とは?弁膜症の基礎知識
犬の僧帽弁閉鎖不全症は犬で最も多い後天性心疾患で、高齢になるほど発症が増えます。小型犬では遭遇頻度が高い疾患です。
この病気は心臓の左心房と左心室の間にある僧帽弁という弁が正常に閉じなくなり、血液が逆流してしまう状態を指します。
心臓の仕組みと僧帽弁の役割
心臓は全身に血液を送るポンプの役割をしています。
犬の心臓は4つの部屋に分かれており、それぞれ右心房・右心室・左心房・左心室と呼ばれます。
僧帽弁は左心房と左心室の間にあり、血液が一方向にしか流れないようにする扉の役割を果たしています。
正常な状態では、左心房から左心室へ血液が流れる時だけ開き、左心室が収縮する時はしっかりと閉じます。
ポイント
僧帽弁閉鎖不全症は進行性の病気です。生存期間はステージや併発疾患で大きく変動します。国内報告では、心不全(ACVIM C 以降)でピモベンダン(=犬や猫の心不全の治療に使用される強心薬)を開始した犬の生存期間中央値は約405日(約13か月)とされています。
弁膜症が引き起こす体への影響
僧帽弁が正常に閉じなくなると、左心室から左心房へ血液が逆流します。
その結果、心臓から血液を全身へうまく送り出せなくなり、血液がうったいしてしまいます。
病気が進行し、血液のうったいが悪化すると、肺に水が溜まる肺水腫という状態になり、呼吸困難を引き起こします。
犬の心臓病の原因と発症しやすい犬種
主な原因は加齢による弁の変性
僧帽弁閉鎖不全症の最も多い原因は、加齢に伴う弁膜の変性です。
年齢を重ねるにつれて僧帽弁が厚く変形し、弁を支える腱索という糸状の構造物が伸びたり断裂したりします。
その結果、弁がしっかりと閉じなくなってしまいます。
発症しやすい犬種と年齢
僧帽弁閉鎖不全症は小型犬に圧倒的に多い病気です。
特に以下の犬種では遺伝的に発症しやすい傾向があります。
年齢別の発症リスクを見ると、6歳を過ぎると急激に増加し、10歳以上では30%以上、小型犬に限ると50%以上が何らかの心臓疾患を抱えています。
また、オスの方がメスよりも発症率が高い傾向にあります。
注意点
好発犬種ではない場合でも心臓病になる可能性はあります。特に8歳を超えたら、犬種に関わらず定期的な心臓チェックを受けることをおすすめします。
犬の心臓病の症状チェックリスト
僧帽弁閉鎖不全症の厄介な点は、初期段階では目立った症状が出にくいことです。
アメリカ獣医内科学会が定めるステージ分類に沿って、症状の変化を見ていきましょう。
ステージ別の症状
ステージA:リスクはあるが異常なし
好発犬種であるが、現時点で心臓に異常は見られない状態。症状はなく、治療も必要ありません。年1回の定期検査が推奨されます。
ステージB1:心雑音はあるが心拡大なし
聴診で心雑音が聞こえるものの、心臓のサイズは正常範囲内。無症状のため飼い主が気づくことは難しい段階です。半年ごとの定期検査が望ましいでしょう。
ステージB2:心拡大が認められる
心臓が大きくなり始め、咳が出ることがあります。この段階から投薬治療が必要になります。疲れやすさや食欲の低下も見られ始めます。
ステージC:心不全症状が出現
肺水腫による激しい咳や呼吸困難が現れます。運動を嫌がり、安静時でも呼吸が荒くなります。緊急性が高い状態です。
ステージD:難治性心不全
標準的な治療でも改善が見られない末期状態。QOLを重視した緩和ケアが中心となります。
家庭でチェックできる危険なサイン
以下の症状が見られたら、早めに動物病院を受診してください。
緊急受診が必要な症状
舌が青紫色になる、安静時でも呼吸が速い、座ったまま動けずに苦しそうにしている、突然倒れたり失神したりする場合は、すぐに動物病院を受診してください。
診断方法と治療の選択肢
動物病院での診断の流れ
心臓病の診断は、複数の検査を組み合わせて総合的に行います。
問診と身体検査
症状の有無、いつから変化が見られたかなどを詳しく聞き取ります。あわせて体重測定や体温チェックを行い、舌や歯ぐきなど口の中の色(口腔粘膜)も確認します。
聴診
心雑音の有無と程度を確認します。僧帽弁閉鎖不全症では特徴的な雑音が聞こえます。
レントゲン検査
心臓の大きさや形、肺の状態を確認します。心拡大や肺水腫の有無を判定します。
心臓超音波検査(心エコー)
心臓の内部構造や血液の流れ、弁の動きをリアルタイムで観察します。ステージ判定に欠かせない検査です。
血液検査
心臓マーカー(BNP検査など)や腎臓・肝臓の機能をチェックします。腎臓や肝臓の機能は心臓病の治療薬の選択においても重要です。
治療法と費用の目安
僧帽弁閉鎖不全症の治療は、ステージに応じて内科治療と外科治療に分かれます。
| 治療法 | 対象ステージ | 費用目安 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 初回検査(診断時) | 全ステージ | 2〜5万円 | レントゲン・心エコー・血液検査など |
| 内科治療(月額) | B2〜D | 1〜3万円 | 薬代+定期検査費用。病状により変動 |
| 外科手術 | B2〜C | 数百万円 | 実施施設や重症度で大きく異なります。 |
| 定期検査 | A〜B1 | 1〜3万円 | 半年〜1年ごと |
注意点
本料金表は、公開されている統計資料・調査資料(アニコム家庭どうぶつ白書等および日本獣医師会関連資料など)をもとにした目安です。実際の診療内容・費用は動物病院ごとに異なりますので、正確な金額については必ず各動物病院にお問い合わせください。
内科治療の内容
ステージB2以降では、以下のような薬を組み合わせて使用します。
・ピモベンダン(強心薬):心臓の収縮力を高め、血管を広げる作用があります
・利尿剤:肺や体に溜まった水を排出します
・ACE阻害薬:血管を広げ、心臓の負担を軽減します
内科治療は病気を完治させるものではなく、進行を遅らせて症状を緩和することが目的です。
外科治療(僧帽弁形成術)について
根治を目指せる唯一の治療法が僧帽弁形成術です。
人工心肺装置を使い、心臓を一時的に止めた状態で僧帽弁を修復する手術です。
手術によって、投薬が不要となり通常通りの生活を送れるようになる可能性があります。心臓の外科手術は、年齢、持病、心臓病の進行度や全身状態などによってリスクが異なります。
心臓外科手術を行える施設は限られているため、手術を希望する場合は、まず心臓病を専門とする病院や専門医の診察を受けて、詳しく相談することをおすすめします。
よくある質問
心雑音があると言われましたが、症状がありません。治療は必要ですか?
心雑音があっても、咳や呼吸の苦しさなどの症状がなく心臓の大きさも正常であれば、多くは「ステージB1」と考えられ、この段階では薬による治療は行いません。一方、症状がなくても検査で心臓の拡大が確認された場合は「ステージB2」と判断され、ここから内服薬による治療が検討されます。 治療が必要かどうかは、かかりつけの獣医師とよく相談していきましょう。半年〜1年に1回は定期検査で心臓の状態をチェックしてもらうことが大切です。
心臓病と診断されました。散歩や運動はしてもいいですか?
ステージによって運動制限の程度が異なります。B1までなら通常の散歩は問題ありませんが、B2以降は激しい運動は避けるべきです。ゆっくりとした散歩は可能ですが、疲れたら無理をさせず休憩を取りましょう。獣医師と相談しながら、愛犬に合った運動量を見つけることが重要です。
食事で気をつけることはありますか?
心臓病用の療法食(低ナトリウム食)が推奨されます。塩分を控えることで心臓の負担を減らせます。また、肥満は心臓に大きな負担をかけるため、適正体重を維持することが大切です。適正な食事内容と量を維持していきましょう。
まとめ
犬の心臓病、特に僧帽弁閉鎖不全症は小型犬の高齢期に多く、10歳以上では半数以上が何らかの心臓疾患を抱えています。初期段階では無症状のため、定期的な聴診による心雑音チェックが早期発見の鍵となります。咳・疲れやすさ・呼吸異常などの症状が見られたら、すぐに動物病院を受診しましょう。ステージB2から内科治療が始まり、薬によって進行を遅らせることができます。根治を目指すなら外科手術という選択肢もありますが、費用や年齢制限があるため、獣医師とよく相談することが大切です。愛犬の変化に早く気づき、適切な治療を受けることで、健康で長生きできる可能性が高まります。
本記事は一般的な情報提供を目的としています。症状や治療方針は個体差が大きいため、必ず獣医師等の専門家にご相談ください。
